親子で知的ゲーム散策!α世代におすすめの新しい学びの世界
【目次】
子供が静かに集中していると思ったら、実はゲームの実況動画を見ていただけ...なんてことありませんか。大人が驚くほど、毎日飽きもせず真剣にゲームのプレイ動画を見ている子供たち。この集中力を勉強に生かしてほしいと日々悩んでいる親御さんも多いのではないでしょうか。
それにしてもなぜ、子供たちはこれほどまでにゲームの実況動画に夢中になるのでしょう。そこには、α世代と呼ばれるこの世代に生まれた子供たち特有の性質と社会的背景が影響しているようです。
デジタルネイティブのα世代とは?
α世代(ジェネレーションα)とは?
日本で、現在α世代と呼ばれている ジェネレーションαとは、2010年〜2024年頃までに生まれた子供たちの事を世代別で分類した総称をいいます。昨今、ビジネスシーンやニュース記事など様々な分野でこの言葉が定着し表現され始めています。
ジェネレーションαは、オーストラリアの人口統計学者であり、世代研究者のマーク・マクリンドル氏が、2005年に提唱したのがはじまりです。
前述のように、この世代に生まれた子供たちは、スマートフォン、インターネット、SNSなどが身近にある環境で生まれ育ち、幼少期からデジタルテクノロジーを使いこなし慣れ親しんでいるため、その上のZ世代と同様に デジタルネイティブとも表現されています。
α世代の子供たちの特徴は、オンラインで人とつながることに抵抗がなく、SNSやメッセージアプリアプリを使い、頻繁に友人や家族と情報共有をし発信するため、読み書きの能力やメディアリテラシーも他の世代と比較して高い傾向があるようです。
また、自己表現が得意な子供たちが多く、その手段として幼少期からの環境の影響もあって、自然と創造的な活動に興味を持ちます。すぐ手に届く場所にデジタル機器があるため、写真、ビデオ、音楽、文章など様々な形で自分自身を表現してみたり、実際にYoutube、Instagramなどのプラットフォームでオリジナルの作品を世界に向けて発信する子供たちもいます。
さらに、α世代の子供たちは、SNSやネット配信動画などを通じて、多種多様な世代、人種の考えや生き方を早くから吸収し理解している背景があるため、異なる人種や文化、性別、性的指向に対しても比較的開放的という特徴もあり、社会的事象を自分事としてとらえる環境にあるようです。世界を動かしたスウェーデン出身の環境活動家グレタ・トゥンベリさんは、α世代の上のZ世代にあたりますが、欧州では小学生が環境問題に取り組み率先してデモ活動に参加している事実もあります。
そんなデジタルネイティブのα世代を親世代が理解するには、自分たちの時代の価値観を子供たちに押し付けず、まずは子供たちが夢中になるものを観察すること。そして一緒に体験してみて子供視点になることが大切です。
α世代の「好き」だから入る学びスイッチ
ここで、子供たちの 「好き」が何故大切なのか気づかせてくれるエピソードをご紹介します。
13歳という若さで数学の新定理を発見した天才数学者の梶田光さんがいます。(2021年)当時、難解な数式をさも楽しそうに大人たちに解説する姿をメディアで見かけ、関心を抱いた方も多いのではないでしょうか。
その実力はすでに数検1級、英検1級特別賞を受賞し、3歳からはじめたピアノの腕は大人も顔負けというのだから驚きです。この頭脳の持ち主が数学にはまったきっかけはというと、シンプルに 「数が大好き」だったから。
梶田光さんは1歳、2歳でおもちゃ代わりに電卓を打ち、お風呂場に貼ってある九九の計算表を歌のように暗記し、数の記号に夢中になります。そんな光さんの「好き」を早くから見抜いたお母さんが、小学1年生の時に数学の洋書を手渡すのです。
読みたいがあまりに英語までマスターした光さんにとって、数学は 単なる勉強ではなく、自分の好きを追求できる遊びであり、知的好奇心を満たす学びでした。
自分の「好き」を見つけられた子供たちは、勉強をしなさいと言われずとも自発的に 学びスイッチをオンにして、知識を吸収しそれを土台としさらに広く深く学びの面白さを拡張していきます。
AI時代を生き抜くα世代の子どもたちに必要なこと。それは人生を通して 遊びを学びにかえる豊かな創造力やそれをどこまでも 追求できる探究心を育てることです。
それには、日常の中でいかに 「好き」や 「楽しい」と感じることを 「学び」に結び付けられるかが重要な鍵となってきます。その力は、子供たちが受験勉強や学校のテストのために短期的に記憶して覚えた知識よりも圧倒的に有益で子供たちを一生守ってくれる貴重な財産となることでしょう。
そして、子供たちが夢中になるゲームやゲームの実況動画にも、その「学びスイッチ」がたくさん隠されているのです。
α世代とゲームの付き合い方
AI時代を生きるデジタルネイティブの子供たちにとって、ゲームをプレイしたり、ゲームの実況動画を見る行為は、単なる遊びにとどまらず、自然に「学び」を自分の中に取り入れていく作業です。
例えば、ゲームを通じて最新のデジタル技術に慣れ親しむことは、子供たちにとってAI時代に必然的な デジタルリテラシーの向上を図ることができます。また、ゲームは インタラクティブな学習環境でもあります。ゲーム内で起きた 問題を解決する方法を導き出したり、目標に到達するための 戦略的思考や、仲間との協力、 コミュニケーションなどのスキルを磨く場所と考えることができますね。
小学生に聞いた人気ゲームタイトルのアンケート調査の結果では、1位が マインクラフトでした。このゲームは、プレイヤーが自由に世界を構築できる仕様になっているのが特徴で、ゲームの中に、到達するべきゴールが設定されていません。そのため、α世代の子供たちは、制限されない環境で作る世界の構築により想像力を刺激され、自己表現やクリエイティブな思考を鍛えることができるのだと評価されています。
引用出典: 【「ゲムトレ」 ゲームに関するアンケート調査2023】
もちろん、利点ばかりではありません。親がゲームのコンテンツ内容の選択をしっかりとアドバイスしたり、健康的な生活習慣と調和がとれるよう適度な時間配分を見守ることが条件です。
専門家が解説するゲーム実況動画「ゲームさんぽ」
ゲームプレイと同様に子供たちに人気のゲーム実況動画。ここでは、「学びスイッチ」につながる親子におすすめしたいゲーム実況動画をご紹介したいと思います。
YouTube人気動画企画「ゲームさんぽ」の魅力
「ゲームさんぽ」は、対話型鑑賞法という形式をとって展開されるYoutube動画の人気企画シリーズです。このシリーズは、ゲーム本来の目的を遂行せず、ある分野に精通した専門家と一緒にゲームの世界を散歩し解説してもらうことで、その分野の世界の見え方が一瞬にして変わりそれぞれの学びの面白さを発見できるというもの。
企画の発端は、シリーズ発案者がゲームプレイを見ていた当時3歳の息子さんの発言に、ゲームとは全く異なる新しい視点の面白さを発見し、この企画を思いついたのだそう。それは固定概念を打ち破ることで、すべての日常に学びスイッチという宝物が隠されいるとも言えます。
動画では、第三者である専門家は何も知らされておらず、初めての未知なる世界をゲームの案内人と共に散策していきます。それは、ゲーム制作者やゲームプレイヤーが想像を超えた着眼点を見出す事となり、視聴者はまるで専門家が初めて何かを発見するプロセスを一緒に目撃しているような追体験ができます。
時に動画内の専門家たちは、ゲームの世界をゲームとして見るのではなく、言語で世界を分けず物事を見る赤ちゃんのようなDeepLearningの視点で、そこに隠された物事の本質を視聴者に見せてくれます。ゲームの世界だからこそ成り立つ現実ではありえない環境下で、専門家が実際にその場でリアルに観察が可能なことも面白い発見ができるこの企画ならではの醍醐味です。視聴者はその貴重なフィールドワークを一緒に体験できるのです。
専門家と人気ゲームの意外な組み合わせ
①気象予報士×『ゼルダの伝説』
誰もが知っている有名な人気ゲームの世界をさんぽするのは、なんと気象予報士である石原良純さん。石原良純さんが、ゲームの世界の中で起こる天候の変化、気象条件、地形の特徴などを臨場感たっぷりに専門的にそして面白く解説してくれます。
この動画では、目の前で起こるゲームの世界の天気について気象予報士に解説してもらうというこれまでにない体験が経験できます。実際の気象条件や地形の変化により起こる雷や風向きなど事細かに再現されているゲームの世界にも改めて驚きは隠せません。
専門家の視点でみたゲームは学びの宝庫で、すでにゲームをプレイしている子供たちにとっても、ゲームに対して肯定的ではない親御さんにも天気の変化の面白さと、それを夢中で解説してくれる「好き」を仕事にした気象予報士という職業にも関心が湧くはず。
②植物学者×『モンスターハンター』
ゲームをしない人でもタイトルは耳にしたことのある長年人気を誇る有名なゲームタイトルです。この完璧につくり上げられたファンタジーなゲームの世界の中を、植物学者と進んでみると、まるで未知の世界に生息する生物や植物の生態系調査をしている学者気分になれます。
ゲームの世界を歩き回りながら、植物学者は一体何を見ているのか?どこを見て何を考察しているのか?視聴者は、常に目の前の現象を鋭く観察し、仮説や考察を繰り広げ、その状況を丁寧に分かりやすく解説してくれる植物学者の様子に感動するはず。そこには子どものように好奇心を丸出しにした大人の真剣さを見ることができます。この動画を見て学びスイッチが入った子供たちは、もっと詳しく自分で植物のことを調べたいと好奇心に火がつくかもしれません。
学びスイッチを刺激するおすすめ動画
シリーズの中でも視聴回数がダントツに多い大人気のお動画があります。
①古代ギリシャの歴史を学ぶ@『アサシンクリード』
世界中のゲームプレイヤーを魅了した『アサシンクリード』という人気ゲームの舞台を古代ギリシャ研究家とさんぽします。まるで古代ギリシャにタイムスリップしたような体験ができるのがこの動画です。
解説してくれている古代ギリシャ研究家の藤村シシンさんによると、実際に残された遺跡の写真を見ても、当時の状況を想像して振り返るのは非常に困難だそうです。それが、ゲームの中でなら、古代ギリシャに訪れているかのように、立体的にその時代を体感できると言うのです。古代ギリシャ人は何を食べ、どのような生活をしていたか、当時の法律や政治、建築についてまで、プレイヤー自身がまるで古代ギリシャ人となりその世界を走ったり、立ち止まったりして古代ギリシャを体験できるのは考えられない経験です。平面的な歴史の教科書からは決して学ぶことのできない驚きの学びが体感できると専門家をも唸らせる回となっています。
③天文学を学ぶ×『Universe Sandbox 2』
星や宇宙の不思議について、天文学の専門家に直接話を聞くことは、残念ながら日常ではなかなか機会がありません。この動画では、知的好奇心を誘う宇宙の面白い話をたくさん聞くことができます。もちろん現実では不可能なゲームならではのアングルで惑星や彗星を観察したり、本物と同じように動く宇宙に衝撃を与えて物理シミュレーションまでできてしまうのですから、驚愕です。ロマン溢れる宇宙に魅了されて、子供たちが天文学や天体物理学に興味を持つきっかけになるかもしれません。
③建築から人類史を学ぶ × 『マインクラフト』
子供たちに圧倒的な人気を誇るマインクラフトを建築学の専門家とさんぽします。このゲームもひとたび専門家と一緒に歩くと、建造物の変化から人の欲望の歴史を垣間見ることができます。ゲームとはいえ、そのテーマは大変興味深い知的な内容に驚く大人たちも多いはずです。ゲームの中に存在する建物には物理的な制約がありません。そのため専門家でさえも、現実の建築学からは予測できない新たな発見に気づける事があるそうです。人をとりまく環境の眺めを研究する景観工学や建物の歴史から見る民俗物理学など、いろいろな学問の存在を知ることも学びにつながるでしょう。
その分野のプロの話を直接聞くことは、将来の職業の一つとしてこんな面白いお仕事があるのかという希望や目標を子供たちに選択肢として与えることができます。動画に登場する専門家や案内役の大人たちに共通して言えることは、誰もが真剣に面白がって「好き」を語っているのです。その姿に子供たちは共感し、ワクワクし、興味を持つはずです。
まずは、親世代が大好きな分野やトピック、子供が好きなゲームの動画を選んで視聴することをおすすめします。きっとこれまで感じていたゲームというものの固定概念ががらりと変化するはずです。
そして、その面白さに大人が気づいた時、子供と同じ目線で本当の学びにつながる「好き」についての対話ができるようになるのではないでしょうか。
α世代の子供と親の接し方
親がサポートできること
AI時代には避けられないデジタルテクノロジーの進化を受け入れ、α世代の子供たちをサポートする親世代に必要なことは、いかに子供の視点に立てるかということです。
1.最先端の技術に触れさせる
恐れず時代の最先端を親世代が経験し受け止める事が重要です。ドローン撮影、3Dプリンター、VR環境など最新の技術を知ること、触れる機会を積極的に持つことも子供たちの視野を広げます。
2.学びスイッチが入る環境を用意する
子供が自ら気になって調べたり、学ぼうとするスイッチは日常にあります。子供たちが今夢中になっている遊びを実際に体験してみて、何が面白いのかその子供たちの芯の部分の願望や想いを汲み取り、別の形で実現した環境を用意してあげることが重要です3.日常的に思考のトレーニングを取り入れる
3.日常的に思考のトレーニングを取り入れる
論理的思考の訓練は、特殊なスクールや学校に行くことだけではありません。毎日の生活の中で、考える習慣を身に付けること。それは、子供たちの一番近くにいる親が簡単に応援できることです。子供たちの学びスイッチである「どうして”WHY”」を適当に流したり、ごまかしてしまったらもったいないのです。答えに困ったら、必ずしも親が正解を答える必要はありません。親子で考えてみたり、ネット検索やYoutubeで動画を見て一緒に答えをさがすことも、親が子供の大事な好奇心の源をサポートできることです。
4.子供と対話する
そして、子供との対話を大切にしましょう。時には親から「どうして”WHY”」を子供に尋ねてみましょう。どうしてこれはこうなんだろう?なぜあれば、ああなっているんだろうね?など対話することで子供たちの考えるクセがつき、自ら問題を解決する力がつくようになります。そうなることで何気ない日常が思考のトレーニングの場所となり、学び場に変わります。
5.親が子供のお手本になる
親が自ら手本になってその姿を見せること。そして親が夢中になって「学び」の面白さを教えてあげられると子供は自然と興味を持ちます。デジタルネイティブのα世代だからこそ、実はアナログな刺激や体験を求めています。それは親がサポートできる親子が一緒になって体験できる「学び」にもなります。
親が注意したいこと
親がα世代の子供たちと接するときに注意したいことがいくつかあります。
1.適切なデジタルバランス
デジタルテクノロジーに囲まれた環境で育ったα世代は、適切なデジタルバランスを保ってあげることが重要です。親は子供たちにデジタルデバイスの利用時間や使用方法についてルールを決めること。家族全員でデジタルフリータイムを設けることも検討してみましょう。
2.対面のコミュニケーション:
対面でのコミュニケーションに慣れていないα世代に人間関係の大切さを教えることも大切です。親は子供たちとのコミュニケーションを積極的にはかりましょう。子供たちの気持ちや考えを尊重して、共感することで子供たちの心の成長を助けましょう。
3.デジタルメディアとの付き合い方:
デジタルリテラシーの高いα世代ですが、その一方でSNSやインターネットへの拡散や投稿における心理的ハードルが低いため、デジタルメディアとの付き合い方に注意が必要です。デジタル環境におけるプライバシーの問題やフェイクニュースなど、デジタルメディアを取り扱う時にルールやガイドラインを子供たちと一緒に決め、大人が注意して見守る必要があります。
親世代が子供たちのデジタル環境を把握し適切なガイダンスで導いてあげることができれば、α世代の子供たちは驚くほど成長し、その姿に親世代が学ぶことも多いでしょう。
学びハブ編集部 富田直美
参照
- いいだ/なむ(編著)『ゲームさんぽ 専門家と歩くゲームの世界』白夜書房