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【解説】専門家に聞くエリクソンの「発達段階」とは?~子供の心と身体の成長と親の見守り方~

#用語 #教育 #専門性
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【目次】

    「エリクソンの発達段階」という言葉を聞いたことがありますか?

    『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』の著者である寺島知春さんに「エリクソンの発達段階」による子供の発達課題と年齢別親の見守り方を解説していただきました。

    プロフィル

    絵本研究家/ワークショッププランナー/著述家。東京学芸大学大学院修了、教育学修士。約400冊の絵本を読み聞かされて育ち、絵本編集者を経て現在に至る。著書に『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』(秀和システム)。ワークショップと絵本「アトリエ游」主宰。 https://terashimachiharueh.wixsite.com/atelier

    エリクソンの発達段階は?

    「エリクソンの発達段階説」は、発達段階説という考え方の代表的な一つであり、教育・保育や心理、福祉の現場で、専門職に広く参考にされているものです。発達段階説では、人間は一生をかけて連続的に変化・成長する存在であり(生涯発達)、その変化は時期ごとに段階を踏みながら進むと考えます。

    ドイツ出身の発達心理学者であるエリクソンは、人生を8つの連続する段階とした「8段階説」を提唱しました。 8段階とは、「乳児期」「幼児期前期」「幼児期後期」「児童期」「青年期」「成年期初期」「成年期中期」「成年期後期」を指します。

    エリクソンは8段階の各時期に、乗り越えるべき「発達課題」があるとしました。発達課題をうまくクリアできる場合と、そうでない場合が起こるとされます。発達段階説は、人が生きていく際のおおよその普遍的な流れ、おおまかな目安と捉えるのがいいでしょう。

    発達段階 図表「エリクソンの発達段階説」8段階の発達段階と課題

    子供の発達段階について大人が把握しておくことは、時期ごとの変化をおおらかな気持ちで受け止めたり、関わり方を工夫したりすることに役立ちます。ここではエリクソンの説にもとづきながら、子供期の発達を中心に、その後の人生における発達までも見ていきます。

    1.乳児期 0歳~1歳頃

    乳児期の発達課題

    1段階めの乳児期は、誕生からおよそ1歳ごろまでにあたります。発達課題は 「信頼感の獲得」です。これは、養育者がいつも側にいて、さまざまな欲求を満たしてくれることを通して、赤ちゃんが「この世界は信頼できる」と感覚的に理解していくことを指します。

    乳児期の発達段階
    乳児期の親の見守り方

    したがって、身近でお世話をしてくれるお母さん・お父さんなどとの関係が非常に重要です。赤ちゃんが泣き声や視線で発するさまざまなサインに、大人が答えていくことは、単に赤ちゃんの暮らしを物理的に成り立たせるだけでなく、愛着という絶対的な信頼感を形成するのに欠かせません。

    また、愛着には皮膚の密着が肝心です。これは哺乳類である人間が、乳児期に限らず幼児期やそれ以降にわたって、安心を得たり、多様な情報を得たりするのに大切な方法です。しかし、日本の文化に暮らす私たちは案外、軽視しがちではないでしょうか。

    赤ちゃんとの素肌のふれあいを多くしてください。おむつだけの赤ちゃんとお母さんが肌を合わせる 「カンガルーケア」や、裸の赤ちゃんに触れて行う 「タッチケア」などを取り入れるのもよいでしょう。皮膚の密着は、赤ちゃん自身の発達課題の達成をおおいに手助けしてくれます。

    乳児期の見守り方

    2.幼児期前期 1歳~3歳頃

    幼児期前期の発達課題

    2段階めの幼児期前期はおおむね1〜3歳ごろで、発達課題は 「自律感の獲得」です。排泄などの暮らしの基本を「自分でできる」と思えると、「自律」が獲得されます。

    幼児期前期の発達段階
    幼児前期の発達と親の見守り方

    大人の言葉をまねして覚え始め、時間をかけて会話というコミュニケーションを身につけていくときでもあります。言葉によるやりとりの成立は、子供に「できた」の感覚を味わわせます。かたや、大人はそれだけに一喜一憂せず、 非言語的コミュニケーションにも同じくらいの重きを置きたいものです。

    特に、乳児期からつづくスキンシップは、可能な間は積極的に取り入れてほしいと思います。素肌が全面的にふれあう場面はさすがに減っていきますが、たとえば子どもが何かを完了したら「できたね」と言いながら抱きすくめるなどはできます。

    特段ほめることのない通常時でも、不自然でない程度にふれあいを保てると、子供に安心や信頼の「貯金」が増えていきます。心のなかに貯まっていく安心・信頼は、他者と円滑な関係を築くためのゆるぎない土台となります。

    毎日をともにする家族だけができることです。スキンシップが可能な時期は、やがて過ぎ去ります。大人にも心地よさをもたらしてくれますから、ためらわず行ってみてください。

    言語・非言語のこうしたやりとりのなかで、子供は経験を重ね、「自分の体をコントロールできる」「このやり方で大丈夫なんだ」という確信をいくつも手にします。それが 自律感の獲得につながります。

    なお、幼児期前期は 「イヤイヤ期」の始まりを含みます。骨の折れるときですが、子供はここで「自分という存在」に目覚めていきます。強い主張によって「自分と他の人は違う」と認識することもまた、自律感を支えます。発達に欠かせない段階と思えると、大人は肩の力を少し抜けそうです。

    幼児期前期の見守り方

    3.幼児期後期 3歳~6歳頃

    幼児後期の発達課題

    3段階めの幼児期後期はおおむね3〜6歳ごろで、発達課題は 「自発性の獲得」です。自発的な行動を通して、社会(=集団)に関わっていこうとする感覚を学びます。

    幼児期後期の発達段階
    幼児後期の発達と親の見守り方

    このころは言葉が上達し、絵を描いたり、集団での遊びに興じたりと、できることの幅が広がっていきます。大人としても、そんな子供の様子を見るのはうれしいものです。

    つい、「もっとうまく」と欲が出てしまいますが、大人の思いが先走って子供本来の姿が見えなくなるのでは、本末転倒です。目を向けるべきポイントは「積極的な取り組みであること」です。

    保育園・幼稚園での生活はもちろん、園外でもほかの子供達と関わる場面が増えていきます。その際に、他の子を前にしてなかなか関わりをもてないでいる子には、大人がその子の性格や特性を見ながら、どんなコミュニケーションをとると気持ちよく一緒にいられるかを伝えていけるとよいでしょう。

    集団遊びの輪に入ると、子供の行動・経験の幅はひといきに広がります。友達と一緒に体と心をめいっぱい動かすことは、発達課題の達成や 非認知能力の伸びをうながします。

    さて、このころには、絵本との出会いを果たす子もますます増えてきます。胎児や乳児のころから絵本とつきあってきた場合は、親子の間でコミュニケーションツールとしての絵本の使い方がすでに確立されているでしょうから、そのまま存分に楽しんでください。幼児期前期に初めて取り入れる場合には、やはり、絵本と子供のあり方について大人が先走らないことが鍵となりそうです。

    「言葉を覚えてほしいから、絵本の文章を子どもに音読させる」などのやり方は、大きな誤解です。発達の観点からは、せっかく絵本を用いているのにコミュニケーションが度外視されている点が残念でなりません。

    絵本をきっかけに、子供との会話や発見を楽しむ気持ちで開いてください。彼らの自発的で自由な想像世界を、大人がのぞかせてもらうくらいのスタンスが、ちょうどいいように思います。また、大人による絵本の音読は、子供の安心・信頼感をよく育ててくれます。絵本の効用については、一般にはまだまだ誤解が少なくないと感じますが、子供にフォーカスするとそうそう方向を間違えないように思います。

    幼児期後期の見守り方

    4.児童期 7歳~11歳頃

    児童期の発達課題

    4段階めの児童期はおおむね7〜11歳ごろ、小学生時期にあたります。発達課題は 「勤勉性の獲得」です。

    児童期の発達段階

    勉強などの目の前のことに子供が取り組み、達成を通して 「勤勉性」や有能感を得るとされます。そうでないと 「劣等感」を抱くとされます。

    小学校という場に適応し、集団のなかでさまざまな出会いや体験を重ねていく時期です。仲間内でのいざこざに直面する場面や、先生などの親以外の大人から影響を受ける場面などが見られることもあります。

    たくさんのトピックが立ち現れますが、児童期は二次性徴が訪れる前までの、心身ともに安定した生育期といえます。

    児童期の発達と親の見守り方
    1)学習習慣を身につける

    学校での教科学習を中心に、学習の習慣を身につけ、社会生活に必要な基礎的な知識を学んでいきます。また、学校外での塾や習い事というトピックも出てくることでしょう。ここでは特に、親御さんの関心の高い後者について考えてみます。

    塾や習い事を子供の生活にどう配置していくかは、悩ましいところです。ひと昔前までは、習い事は「なるべく早い段階で、たくさんの知識や技術を」といった風潮が強かったように思いますが、一方で、現在では習い事の数をあえて絞る家庭も見られます。実際のところ、どちらがよいのでしょうか?

    教育心理学には 「レディネス」という概念があります。レディネスとは、 ある学習をするために必要な準備状態をいいます。このレディネス論には、学習の内容を十分に吸収できるまでに子供が発達するのを待って教育するのがよいとする説と、はたまた、教育することで子供の発達を促すのがよいとする説とが存在します。2説は並存しており、どちらがいいということは今のところありません。つまり、はっきりとした答えはないのです。

    しかし、子供たちを目の前にすると、どちらの説を参考するにしても、一人ひとりの性格や特性を無視して乱暴に当てはめることはできないと痛感します。子供はもって生まれた性質も、何かをするテンポも、得意や興味も、十人十色です。

    塾・習い事とどう向き合っていくかを考える際には、大人はまずその子自身の普段の様子や、どんなことに興味が向いているかを、よく観察することから始めたいものです。本人にどうしたいかをたずねてみるのも有効です。子供自身に興味があり、達成を信じて努力していける内容や頻度であれば、小さな成功をいくつも重ねる経験ができ、 「勤勉性」の達成につながりやすいでしょう。

    児童期学習面の見守り方
    2)体力面・思考面の伸び、社会性など

    体づくりの時期でもあります。また、だんだんと客観的思考・抽象的思考ができるようになったり、集団生活における社会性を身につけたりします。

    したがって、思いっきり遊んで体と心を養うことが重要です。遊びには、成長に関わるさまざまな要素が凝縮されています。屋外で跳んだり走ったりすることは、体を強くします。ゼロからやり方を生み出す経験は、自分で考え工夫する力を育てます。集団で遊べば、仲間内での情報のやりとりや、人間関係のバランスのとり方などを自然と学べ、社交性を培います。

    体の成長はもちろん、社交性、目標への情熱、忍耐力などの 「非認知能力」と呼ばれる生きるための重要な力が、遊びのなかでは複合的に育まれ、そのなかで発達課題へのアプローチも起こるでしょう。

    ところが、子供達の実際を垣間見ると、遊ぶ場所や時間がない、体力がないなどの声が聞かれます。さらに都市部では、せっかく広場に集まっていても携帯ゲーム機の画面にくびったけで、話し声すら聞こえない光景が頻繁に見られます。

    こうした状況はある程度、大人の工夫で改善できそうです。子供の外遊びの時間的余裕を生み出すことや、遊びに行く際に携帯ゲーム機を手放す習慣づけをするなどは、一例でしょう。

    休みを活用して家族で自然遊びに出向いたり、美術館・博物館へ展示を見に行くなどもおすすめです。

    また、この時期は一般的に、多くの子供が絵本から児童書へと読書の対象を移していく時期ですが、絵本の読み聞かせは小学校の終わり頃まで十分に楽しめ、物事を考える土台を育んでくれます。

    ちなみに児童期の子供の体は、案外アンバランスに成長していくものです。スキャモンの「発達曲線」によれば、児童期のころに神経系はほとんど大人に近いほどの発達を遂げているのに対して、呼吸器や筋などの部分はまだやっと大人の半分に追いついた状況です。つまり、大きな力を出すには体が未発達だけれど、神経系の発達によって器用さやバランス感覚、リズム感といったものはほぼ大人と同じということです。

    そのため、児童期の子供が大人と同じメニューで体力づくりをするのは避けるべきです。やはり体をつかった多様な遊びのなかでさまざまな刺激を経験させることが、この時期の子供達には適切といえます

    児童期体力や思考の見守り方

    生涯つづく発達段階

    発達は生涯つづく

    ところで、発達は生涯つづきます。ここからは、青年期、成年初期、成年中期、成年後期と子供が大人になり、年を重ねていく段階を見てみましょう。

    5.青年期 12歳~20歳頃

    青年期の発達課題

    5段階めの青年期はおよそ12〜20歳ごろで、アイデンティティをつかむ 「同一性の獲得」が発達課題です。

    青年期の発達段階
    青年期の理解

    中学生、高校生にかけての前半ごろは、思春期でもあります。体が性的に成熟していくとともに、反抗期によって心理的離乳も起こります。高校生から大学生にかけての後半ごろは、進路の悩みや自己存在の悩みを抱えながら、大人の社会で自分がどうあるべきかを探っていきます。

    内面が大きく移り変わる時期です。大人として他者と良好な関係を築くには、まず自分が確立されている必要がありますから、避けては通れないといえます。ただし、現在の日本では、実際にはこの発達課題が達成されるのにもう少し時間がかかるようにも感じられます。

    青年期の発達課題の理解

    6.成年期初期 20歳~30歳頃

    成年期初期の発達段階

    6段階めの成年期初期はおよそ20〜30歳ごろにあたり、結婚や家族の形成などで親密な人間関係を構築する 「親密性の獲得」が発達課題です。

    成年期初期の発達段階
    成年期初期の理解

    親密性を獲得していく道すじは、個人差が大きいものです。例えば、パートナーと家庭をもつことや、親になる選択をすることは、他者と密接な関係を保ちながら毎日を過ごすなかで、親密性を獲得する大きな機会になります。

    一方で、結婚や出産を選択しなくても、課題達成の機会はいくらも見出せます。その人なりに誰かを愛し、自分以外の人との連体感を獲得していけることが大切です。

    成年期は、多くの人でパーソナリティや暮らしが安定する時期です。大人として過ごす時間のなかで、公私両面で他者との関わりをもっていくわけですが、このあたりからようやく、幼い頃から時間をかけて育くまれてきたさまざまな能力や技術が真価を発揮し始めます。非認知能力や生きる力といったものは、その代表です。

    保育・教育は、人の一生にわたる育ちを見据えています。目先の結果ばかりにとらわれて、要を見落とさないよう、長い目が必要です。

    成年初期の発達課題の理解

    7.成年期中期 30歳~65歳

    成年期中期の発達段階

    7段階めの成年期中期は、およそ30〜65歳頃です。家庭や仕事を通して有意義な生産をし、次世代を育てます。読者の多くは今まさにここにいるのではないでしょうか。発達課題は 「生殖性の獲得」とされますが、「生殖性」とは必ずしも子どもを産み育てるだけでなく、価値の生産や後進の育成などを含みます。

    成年期中期の発達段階
    成年期中期の理解

    この時期には親になった人を中心に、新たな世代としての子供に、大人の立場で関わるようにもなります。一人の人の生涯発達が、別の一人(子供)の生涯発達とリンクする瞬間です。子育ての楽しみ・辛さや、仕事と家庭の両立、離婚や再婚などの話題に悩むこともありますが、これらはどれも発達段階で起こる普遍的な事柄といえます。

    また、 「中年の危機」が起こることもあります。40代ごろに、やり残したことや別の生き方が頭をよぎって、今を変えようと模索するのです。これが人生のターニングポイントとなる人もいます。

    成年期中期の発達課題の理解

    8.成年期後期 65歳以降

    成年期後期の発達段階

    最後の8段階め、成年期後期はおよそ65歳以降を指します。これまでをふりかえって意味や価値を見出す 「統合感の獲得」が発達課題です。

    成年期中後期発達段階
    成年期後期の理解

    子育て面では親離れ・子離れがあり、育てる役割の喪失により心身に不調をきたす親も見られます。親自身がこうした段階的特徴を知ることは、スムーズな子離れに役立ちそうです。

    社会的役割からの引退、経済力の縮小などもあり、ライフスタイルが地域に根ざしたものへと変化していく時期となるでしょう。

    老化は、個人差があるものの、だれにでも訪れます。体の痛みやもの忘れなど、心身の機能の衰えとつき合いながら、それらを計算に入れて生活を変化させていきたいものです。

    こうした身辺の変化のなかで、人は人生をふりかえります。自らの歩みに意味や価値を読み取ることができ、その人なりの新たな方向性を見出せると、発達課題が達成されるといわれます。

    成年期後期の理解

    まとめ

    人間は発達しつづける存在で、子供の成長をサポートしているときには、実は親も一緒に育っているといえます。親子のつきあいは、一生ものです。ともに育つ人間同士としての視点が、我が子の育ちやお互いの関係性を新鮮にとらえるきっかけになりそうです。

    参照

    • 社会福祉士養成講座編集委員会(編)『心理学理論と心理的支援 第3版』中央法規
    • 無藤隆ほか(編)『よくわかる発達心理学 第2版』ミネルヴァ書房
    • 櫻井茂男(編)『改訂版 たのしく学べる最新教育心理学』図書文化